3.怪盗ポラリスは高校生をしている。

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3.怪盗ポラリスは高校生をしている。

 長い休日のあとにある学校はとても憂鬱だ。  五月六日の黒熊理数の足取りはとても重かった。まるで足が鉛のようだった。  校舎内に入って上履きに履き替えてからも気分は変わらない。晴れ渡って天気が良い分気分はまだましである。これでもし雨だったら、彼の半径五メートルに負のオーラを纏っていそうだ。  理数は学校が嫌いというわけではない。ただ通学するのが――授業を受けるのが面倒なだけだ。  理数がガラガラっと扉を開けて自分の教室に入る。 「りすりす、おはよう」 「いかすみ、おはよう」  教室の窓側で他の友人と話していた烏賊浜が理数に声をかけた。挨拶に互いに非公認なあだ名で呼ぶのは、最近の流行りだ――否、最近の二人だけの流行りと言った方が正確だろうか。  理数が薄っぺらな鞄を机の上にポンと置く。窓側の自席に横向きで腰掛ける。こうすると自然に教室全体を見渡せる。  鞄の数からして、今日も六割ほどの生徒が既に登校していた。いつも通りの変わらない光景だ。ふと、廊下側の一番前の席を見ると、見覚えのある黒髪が目に入った。彼女は小柄な体を更に縮めるように、書店のカバーのついた文庫本を読んでいた。その顔はとても寂しそうだった。  その様子を少し離れた場所でたむろするトップカーストの羊山を中心とした女子達が、嘲笑するかのように見ていた。  いつもと変わらないギスギスしたクラスの雰囲気に理数はイラっとした。  怒りの感情を無理矢理押し殺して、理数は暇そうに後ろで窓を眺める親友のもとに向かった。 「なあ、萌衣――猫星って本当になんとかならないのか?」  理数が萌衣を指差す。少しイラついた口調だったのにも関わらず、烏賊浜はふざけたように言った。 「あれ、珍しいねー、理数が女の子に興味を持つなんて」 「その言い方だと僕が男にしか興味がないみたいに聞こえないからやめろ」 「いやいや冗談だって。そんな本気になるなよ、りすりす」 「いーかーはーまー?」  理数の細いようで意外と鍛えられた両腕が烏賊浜の首もとを襲う。 「ギブギブギブ! 俺が悪かったって。でも、そんな化け物級の握力で首絞められたら笑えないから」  それを聞いて理数は、ふん、と鼻を鳴らす。
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