●第1章● ~~ 1・気になる同級生 ~~

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「西田の今の感情を見て欲しいんだ。ただ、それだけでいいから」  そんな瞳で見られたら、嫌だなんて言えないよ・・・。  私は小さくため息をついて頷いた。 「ありがとう!」  亮が本当に嬉しそうに笑った。亮の笑顔はとっても無邪気で、そこが兄とは違うなあって思った。兄は兄貴という立場だったからか、笑顔はただ優しかった。 亮を見ていると、やっぱり似ている兄を思い出す。 話がまとまって、立ち上がろうとした亮を私が引きとめた。 「あのね、加賀見君。交換条件じゃないけど、実は私も気になる人がいるの。私にはどうしようもないと思っていたけど、出来れば加賀見君にも見て欲しい」 「えっ?誰?」  亮は再び椅子に座り直した。 「同じクラスの山本なおちゃん、分かる?」 「ああ・・・。席がわりと近いから。おとなしい子だろ?」 「うん。なおちゃんってすごく絶望的な感情しか伝わってこないの。顔は笑っていたりするんだけど・・・」  中学生の頃、同じような感情を暫く感じていた同級生が、ある日突然自殺を図ったことがあった。幸い未遂に終わったから、命に別状は無かったのだけれど。でも、山本なおもそうなるんじゃないかと、ずっと不安ではあった。 「分かった。じゃあ明日、俺は山本を見てみる。矢川は西田の傍に行ってみて」 「うん、分かった」 私は頷いて立ち上がった。時計を見ると、もう一時間くらいは話していた。翔子と百合は帰ってしまっただろう。 「それから、矢川が嫌じゃなかったら、俺たち付き合ったってことにしないか?」 「えっ?」  何を言われたのかよく分からなかった。付き合おう、では無くて、付き合っているふり? 「きっと、みんなには呼び出して何を話したのか聞かれるだろう?西田や山本のこともあるし、どうせ二人で話していたら色々とうるさく言われるんだから」 「だから、付き合っているふりをするの?」 「嫌じゃなければ」  “ふり”ってちょっと残念・・・。というのが率直な気持ちかも。でも、残念ながら、亮からは恋愛感情みたいなものは全く伝わってこなかった。じゃあ、やっぱり“ふり”だよね。 「うん、別にいいよ」  私は笑顔で頷いた。 「じゃあ、“付き合っているふり”の第一歩で一緒に帰るか」  亮も笑顔になると、立ち上がって化学室を出た。
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