85人が本棚に入れています
本棚に追加
「口癖だな、“ごめんね”って」
そうかもしれない。だって、人のプライバシーを侵害するのは後ろめたい・・・。
「今から“ごめんね”禁止な。悪くないことを謝るなよ」
「加賀見君だって、“覗くな”って嫌がったじゃない」
「そうだけど、茜の場合は仕方ないことだろ」
どうして怒っているのか私にはいまいち理解が出来なかったけど、とりあえず頷いておいた。
高校の最寄り駅に着くと、思った以上に注目を浴びていることに気付いた。考えてみたら入学してまだ半月だから、新入生カップルはまだ出来ていないのかもしれない。
そうだよね。普通はこんなに早く誰かを好きになったりしないし、例え好きになっても告白して付き合ったりするには早すぎる。偽物カップルだからこそ・・・なんだよね。
それでも、亮は全く気にする素振りも無かったから、私も周りを気にしないように努めた。これは“ふり”なんだから、って自分に言い聞かせたら、ポーカーフェイスも何とか出来た。
「茜、あいつ。酒井の少し前を歩いている奴が西田」
校門を通った時、亮が私に顔を寄せて囁いた。
私達の少し前を百合が歩いていて、その周りには昨日百合に手を振り返していた亮の友達の男子が数人で百合を囲んでいた。百合にはすっかり取り巻きが出来たって感じで、私は思わず笑ってしまった。
「酒井の前だって。ちゃんと見ているか?」
私が百合を見ているのが分かったようで、亮が呆れたようにもう一度西田を見るように促した。
百合の少し前に背中を丸めてガニ股で歩いている、少し大柄な男子生徒がいた。
「分かった。・・・あの集団に話しかけてもいい?」
私は百合たちを指差した。二人であそこへ行けば、不自然じゃなく西田の傍へ行ける。その代わり、私達は確実に冷やかされるのは目に見えているのだけど。
「おう、行こうぜ」
亮はそう言うと、先に歩いて百合の周りにいる男友達に声を掛けた。私もその後に続いて、とりあえず百合に「おはよう」って挨拶をした。当然、一緒に登校してきた私達を見て、男子は亮を取り囲んで冷やかし、百合は「やっぱり告白されたの~?」なんて聞いてきた。
最初のコメントを投稿しよう!