~~ 2・カップルごっこ ~~

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 私は笑って誤魔化しながら、なるべく西田の近くに寄った。  西田からはまず、私達に対してうっとおしいという感情を感じられた。それから、おそらく何か他の事でイライラしていたのも分かった。包丁を持ち出すほどの攻撃的な感情は感じられなかったけど、家を出る前に家族と何かあったんだろう、と思わせるような、家族に向けた激しい感情だった。  亮の見た人が父親なら、多分、父親に殴られんだろう。お腹に激痛が走って悔しいという感情が流れてきた。  あ、ヤバイかも。感覚を直に受けすぎた・・・。  そう思った時には遅くて、お腹の痛みに耐え切れず、私はその場で崩れ落ちるように倒れてしまった。  気がついたら保健室のベッドの上にいた。  いつも、人の感情はともかく感覚の方は直に受けないようにと気をつけているのだけど、今回は知ろうと思って近寄ってしまったから、モロに受けてしまった。次はもう少しガードをして立ち向かおう。  私がベッドを囲っている白いカーテンを開けて顔を出すと、穏やかな感情の、少しふっくらとした養護教諭の遠藤先生が私の方を見た。 「もう大丈夫なの?矢川さん」  もう四十は過ぎていると思うけれど、両頬にえくぼが出来る可愛らしい印象の女性の先生だった。 「あ~あ、また保健室に来ちゃった」  入学して間もないけど、保健室のお世話になるのは三回めだった。一回目は数学の時間に松山先生のヒステリーに耐え切れなくて、二回目はたまたま上級生カップルの喧嘩を目の当たりにしてしまって。  その度に貧血だと言っているけど、あまり何か騒ぎがある度に倒れていたら、感受性が鋭すぎると勘付かれてしまって周りから気持ち悪がられるかもしれない・・・。そこを注意しなくては、と思っている。 「矢川さんのクラスは一時間目は体育だから、終わるまでゆっくりしていきなさい」  遠藤先生の傍にいると、穏やかな気持ちになって落ち着く。こういう人が母親だったらいいのにな。  私はベッドには戻らず、遠藤先生の隣に椅子を持って来て座った。 「ねえ、先生。一年B組の西田君って知っている?」
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