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「ああ、生傷が耐えない子だから、見かけると処置しているわ」
遠藤先生は机に向かって何か書類を書きながら、優しい口調でそう言った。
「そうなの・・・。さっきね、西田君が痛そうにお腹を抱えながら歩いていたから、ちょっと気になって」
「まあ、そう。また喧嘩ね」
遠藤先生は私を振り返って見て、小さくため息をついた。西田は遠藤先生にも喧嘩だと言っているようだった。処置してくれる時に、父親の虐待を疑ってくれたらいいのだけど・・・体格のいい高校生男子だから、まさか虐待に遭っているなんて思わないんだろうな。
一時間目終了のチャイムが鳴ったから、私は教室に戻ろうと思って鞄を持った。
「ああ、ちょっと待っていてあげて。加賀見君が迎えに来るって言っていたわ」
それを聞いて、私は赤面してしまった。遠藤先生は細く微笑んだ。
「加賀見君ね、すごく心配そうに教室に戻って行ったわよ」
それはそうだろう。私は亮に頼まれて、西田に近づいた途端に倒れたんだから。
「だって、先生。こいつ、か弱いから心配なんだよ」
ふいにドアが開いて亮が現れた。なんだか亮はすっかりカップルごっこにハマっているんじゃないか、と思うと変なくすぐったさがあった。
遠藤先生にお礼を言って二人で廊下に出ると、私はやっぱりくすぐったくて思わず笑ってしまった。
「加賀見君、ちょっと入り込みすぎてない?」
「そんなことより、本当にごめん。変なこと頼んで」
亮がポケットに両手を入れたまま、真剣な表情で私を見た。私は黙って首を横に振った。
「あのね、西田君だけど、今日も家族の誰か・・・加賀見君が見たのがお父さんなら、多分お父さんにお腹を殴られたみたい。すごく悔しい感情が流れてきたけど、まだ攻撃的な感情とは思えなかったかな。内に秘めている感情で、外には向いていなかった」
「そうか・・・」
亮は西田を心配しているようだった。
「それで、茜はお腹を抱えて倒れたんだな。痛かったか?」
あれ?私を心配してくれたのかもしれない。なんて思うと、少し嬉しかった。いや、喜んでいる場合じゃないんだけど。
「私はその場だけだから、今はもう全然平気。でも、西田君はかなりの痛みがあるはずだよ。それに、怒りや攻撃の感情って突発的なものだから、いつ爆発するかは予測がつかないよ」
「確かに、そうだな」
そこまで話すとチャイムが鳴ったから、急いで教室に向かった。
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