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そう言った亮の心は無力感でいっぱいだった。
私達はどこまで人に関わっていいのだろうか・・・。出来れば何も気付かずに、出来るだけ関わらないようにと考えてきた。相手のプライバシーも自分のプライベートも守りたかったから。
だけど、西田やなおのように人の命に関わることを見て見ぬふりは出来ない・・・。
だからと言って、何も出来ないこともあるし、その方法が分からないこともある。
「なおちゃんに何があったのかは、聞いてはいけないの?」
「俺の口からは言えないし、本人に聞くのはもっとダメだと思う。それに、茜は山本の感覚を受け取るのは危険だから、絶対に近寄るなよ」
「それは分かったけど・・・誰か力になれる人はいないのかな・・・」
「・・・多分、夏までは大丈夫じゃないかと思う。俺の勘でしかないけど。とりあえず、また何度か山本と接触して、情報を引き出してみる」
亮は深いため息をひとつついた。
それから、いつもの笑顔を見せて私のお弁当箱を見た。
「ちっちゃい弁当箱だな。そんなんで足りるのか?」
「えっ?うん、足りるよ。私、食べるの遅いし。時間が掛かる分、すぐにお腹いっぱいになっちゃうみたい」
私が苦笑いすると、亮は納得したように頷いた。
「おまえ、軽すぎだよ。時間掛けても、もっと食った方がいいんじゃないの」
軽すぎ?ああ、そうだった。亮は私を保健室に運んでくれたんだ。
「今朝、保健室まで運んでくれたんだってね。ありがとう」
「ああ・・・。でも、茜にとっては有り難く無かったと思う」
亮は私から目を逸らして、自分のお弁当を食べることに集中していた。
「どうして?」
「だから・・・見えちゃうからさ」
そうだった。今度はどんな場面を見られたんだろう・・・?
私はお弁当を食べる手を止めて、亮の顔を見た。
「それも、聞いちゃダメなの?」
「茜は俺が何を見たか知りたいの?」
「だって、話すことが省けることもあるし」
私はそう言って笑って見せて、またお弁当箱に箸を運んだ。
兄の死のことも、その兄が亮に似ていることも、佐伯に振られたことも、きっと見られていなかったら話すことは無かったのかもしれない。
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