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斜め前に座っている翔子が心配そうに声を掛けた。あまり大丈夫では無かったけど、もうすぐ授業終了だから、何とか頑張ろうと思ってそのまま椅子に座った。その時に視線を感じて横を向くと、少し遠い廊下側の席から亮がこちらを見ていて目が合った。可笑しな行動をしていたのかな・・・と少し恥ずかしくなって私は視線をそらした。
放課後、いつものように翔子と百合と一緒に帰ろうと教室を出ようとした時、亮がこちらに近づいてきた。
「矢川、ちょっといい?」
まだ教室の中にはクラスメートが沢山いたから、いきなり声を掛けられて私は赤面を防げなかった。別に亮のことを好きというわけでは無かったのだけど、いつも目で追っているのは確かだったから、きっとそれは知っているんだろうな、とか、私が亮を好きだと思っているのかな、とか、頭の中でゴチャゴチャ考えてしまいパニック状態で、ただ真っ赤になって硬直していた。
「大丈夫?茜。すっごい動揺しているけど。呼ばれているよ」
呆れた声で翔子に背中を押された。嬉しそうにニコニコしている百合の顔も目に入ったけれど、私は嬉しいとは思えずに下を向いて亮の方へ行った。
亮はそんな挙動不審な私の様子にも、周りの男子達の冷やかしにも動じず、「ちょっと来て。向こうで話がある」と言って廊下へ促した。
廊下に出ると、亮の戸惑っているような少し怒っているような、そんな感情が流れてきて、ああ、やっぱりいつも見ているのが迷惑だって思っているのだろうな、と感じた。
廊下を歩いて行くと化学実験室があって、誰もいなかったからそこに入った。亮が背もたれのない椅子に座ったから、私も一つ椅子を空けて近くに座った。
やはり亮からは怒りに似た感情が感じられた。
「加賀見君、何か・・・怒っている?」
亮が口を開く前に、私は小さい声で聞いた。
亮は暫くの間、黙ったまま私を見ていた。いつも愛嬌のある笑顔を見ていたから、無表情な亮が怒っているのは明らかだった。
「この前さ、廊下で肩がぶつかったんだよね」
亮が重い口を開いた。
まさか、肩がぶつかって怒っているとか、そんなチンピラ並みの因縁をつけられるのだろうか・・・?私は目を丸くして亮を見た。
「おまえさ、俺が・・・亡くなった兄ちゃんに似ているんだろう?」
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