●第1章● ~~ 1・気になる同級生 ~~

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 何でそれを知っているんだろう・・・。私の目から涙が溢れて頬に流れた。  暫く涙が止まらなくなって、ハンカチで顔を覆いながら泣き続けた。  私には、このどうしようもない力に対して、唯一の理解者である兄がいた。二歳年上の兄は「それは神様からのプレゼントだよ」としきりに諭した。「人の気持ちのわかる、優しい子だって認められたんだよ」と。  人の気持ちなんて分かりたくも無かったし、私は優しい子なんかじゃない。何度もそう思ったけど、勢いよく流れてくる周りの感情は、とても無視できるような代物じゃなくて、私は親に厳しく禁止されればその分、一人で悩まなければいけなかった。 兄は人に言う必要もないけれど、別に無理に無視しなくてもいい、優しい心で受け入れたらいいんだ、ということをしきりに話してくれた。そして兄のアドバイスを受けて、伝わってくる気持ちを理解することで、受け流すことが出来るようになった。  今思えば、もしかしたら兄は私と同じ力を持っていたのかもしれない。  兄の負の感情だけは、私に流れてこなかったのだ。兄の感情はいつも優しく穏やかだった。だけど、兄はいつも私のどんな気持ちも知っているようだった。  そして三年前、私が兄と同じ中学に入学して間もない大雨の日、兄は見通しの悪い道で暴走してきたトラックにはねられて命を失った。私の目の前で・・・。  私が泣いている間、亮の怒りの感情は消えていって、穏やかな感情になっていくのを感じた。  肩がぶつかったとか、兄に似ているとか、結局は亮が何を言いたかったのか、ということが気になり、私は少し落ち着いたら涙を拭いて亮を見た。 「ごめんね、いきなり泣いたりして。お兄ちゃんのことを思い出しちゃったから・・・。それで、話しって何?」  亮も私の顔を真っ直ぐと見ていた。 「俺、普段は出来るだけ人に触れないようにしているんだ」  何が言いたいのかはよく分からないけど、確かに亮はいつもズボンのポケットに手を入れていることが多いし、友達とも距離を取って接しているのが少し不自然に思っていた。 「矢川とすれ違った時、気付かないで肩がぶつかっちゃったんだ」  これって、やっぱり肩がぶつかったことを怒られるのだろうか・・・?それでも、亮の感情から怒りは消えていて、どう言葉を使うかを考えているような感じだった。  私はとりあえず、相槌を打つように頷いた。
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