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私はいたたまれなくなって、思わず亮の腕を掴んだ。亮は驚いて少しの間私の方を見ていたけれど、ハッと気付いたように慌てて私の手を振り払った。
かなり動揺した感情が流れてきた。
「あ、ごめんね。馴れ馴れしくして・・・」
「そうじゃなくて、俺に触れたらダメだって」
あ、そうだった。だけど、亮の動揺した様子を見て、何が見えたのか気になった。
「何か見えたの?」
「うん、触れたら見えちゃうんだ」
私は亮の感情を感じようとしたけれど、亮は精一杯気持ちを穏やかにしていたようだった。
「・・・何が見えたか聞きたいんだけど」
「背の高いイケメンと別れて泣いていた」
亮は私を見ずに、淡々とそう答えた。
ああ、佐伯に別れを告げられた時だ、と思って私は苦笑いをした。
「未来は見えなかったの?」
「・・・自在に何でも見えるわけじゃないからな」
少しの間、気まずい空気が流れた。
「そ、それで、その西田って人がどうしたの?」
私はまだ本題に入っていないことを思い出して、この空気の流れを変えられると思いホッとした。
「ああ、西田浩平って奴なんだけど、そいつは触れた時に過去と未来が両方見えたんだ。過去は、親父さんかな?大柄な中年の男にめっちゃ殴られているところ。未来は・・・その殴った男の背中に包丁を向けているんだ」
私は目を見開いて亮の顔を見た。殺人事件?
「過去は今よりずっと小さい頃だったけど、多分、日常的に殴られているんじゃ無いかと思う。西田のクラスの奴に聞いたら、時々喧嘩したって言って顔に痣を作ってきているみたいなんだ」
「・・・それで、刺すのを止めるの?」
私は何だかおかしな事に巻き込まれていくような気がして、少し恐くなった。だけど、そういう亮の正義感は理解できてしまった。
「勿論、矢川に危険なことは頼まないよ。ただ、俺が見た西田はこの高校の真新しい制服を着ていて、包丁は向けていたけど、刺したわけじゃなかったんだ。だから、もうすぐ実行するかもしれないけど止められると思っている」
ものすごく真っ直ぐな瞳で私を見て、真っ直ぐな気持ちが伝わってくる。
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