身体障碍者用スペース

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身体障碍者用スペース

 郊外にある大型のショッピングセンター。そこの立体駐車場には怪しげな噂がある。  四階の駐車場にある身体障碍者用スペース。そこに障碍者以外の人間が車を停めると、その人には必ず良くないことが起こるというのだ。  このテの都市伝説めいた怪談はどこにでもある、そもそも、友人・知人の誰もそれを体験したことがない…つまり、出所の判らない噂だから、信憑性なんてかけらもなく、俺はまったく信じてなかった。  それでも社会人の礼儀として、そこそこ混雑している時でも、 身障者用のスペースに車を停めるようなことはしなかった。  …その日は朝から大雨だった。それでもどうしても必要な物があり、俺は車でショッピングセンターに向かった。  案の定、立体駐車場は満車で、駐車スペースは空いていない。通路を見回りながら屋上の手前まで行ったが、どこも車はいっぱいだ。  平面駐車場の遠くの方なら空きがあったし、多分屋上も同様だろう。でも、購入予定は重くかさばる品なので、できればカートを使いたいし、荷物の上から傘をかざしても、運ぶまでに濡れてしまうことだろう。  立体の方に空きがないか、もう一度だけ駐車場内をぐるりと巡る。その時、一つだけ空いているスペースが見えた。  ただ、そこは件の噂がある、四階の身障者用スペースだった。  身障者用は出入り口に近い位置に設けられているから、重い物を運んで来るには好都合な場所だ。しかし、いくら土砂降りとはいえ、健常者の俺がそこを使うというのは倫理的によろしくない。  そんな躊躇いを湧かせていると、裏からクラクションを鳴らされた。  反射的に車を前進させると、後続車は空いているスペースに車を停めた。けれどそこには身障者のマークはない。  身障者用のマークがなくても、たまたま怪我などで不調になることもあるから、そういう人が停めたのだろうかと窺ったが、車から下りてきたのは、俺より若い、いかにも健康そのものの奴だった。  あんな奴に停車されるくらいなら、いっそ俺が停めればよかった。そう考えても総ては後の祭りだ。
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