59人が本棚に入れています
本棚に追加
黙って聞いていた千春の頬にも涙が伝わった。
太郎は気付いて千春に謝った。長い沈黙が続いた。
「太郎君、立派に両親見送ったのね、太郎君自身は一人で動けなくなって・・・
誰にも面倒見てもらえなかったのね、何かつらい」
千春は手を出して太郎をベッドの側に呼んだ。
ためらいながら太郎の手を握った、変な感覚だった。
「あれっ、太郎君あんた幽霊だったよね、手が暖かいよ、
私の手と同じじゃない、足もあるし、あんた人間じゃないの?
もしかしてドッキリ?」
慌てる千春だった。
「ちがうよ、おらが言ったことは本当だよ、それとおら死んだけど人間だよ、
生きてる人の霊に対する認識レベルが低すぎるんだよ、
足なんて無い方が怖そうだから昔の絵師が足を消しただけなんだよ、
認識が甘いんだから」
不満そうに言う太郎だった。
次の日、千春は朝から忙しかった。
警察、新聞社、教育委員会、校長、事件と自殺の事情を聴くために
大勢の人が千春を訪れた。
母文子は千春の身体を心配したが意外と元気だった。
「太郎君がどこかで私を見守ってくれてるんだ」
そう思うと心強かった。
教育委員会は生徒の暴行と自殺未遂の不祥事でかなり不満だったが、
校長は千春に優しかった。
「夏休みの間ゆっくり休んで新学期には元気に登校するんだよ、
待ってるからね、あの連中は少年院に送還されたから心配ない」
千春は学校に行くと約束した。
昼過ぎになってクラスメートの坂口道子と安藤みどりがやって来た。
若い女子三人が集まると室内が一気に賑やかになった。
千春もテンションが上がった。
止まるところを知らない女子二人を相手にしながら、
気を使うように太郎をチラチラ見た。太郎は完全に圧倒されて
部屋の隅でしゃがんでいた。
道子が大声で笑いながら首を振り回した時、
角の方でしゃがんでいる太郎の姿が視界に入った。
「キャー お化けー!」
千春は慌ててパニックになった二人を制し、自分の遠い親戚の太郎だと紹介した。
ようやく落ち着いた二人はまじまじと太郎を見ながら
興味を示し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!