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「今日は、太郎君? あれっ、何かちょっとおかしいわ、
その服何、 着物? ちょっと待ってよ、汚れてるんじゃないの、
千春、この子の服おかしいと思わないの、あ、わらじ履いてんの!
ダメよ着替えなきゃ、女の子にモテないわよ、
太郎君お金持ってんの?」
立て続けに道子とみどりに注文付けられた太郎はただオロオロするばかりだった。
金の事を聞かれて太郎は懐から分厚い物を取り出した。
帯で束ねた札束だった。現世に戻ってたぶん必要になるだろうと思って念じた時、
懐の中に現れたのだ。太郎は現在の貨幣価値の認識が無かった。
「ちょっと太郎君! あんた一杯持ってんじゃないの、
なんだ、それだったらこんな汚い着物捨てて新しい服買いなさいよ、
何だったら私達が付き合ってあげてもいいよ」
道子とみどりは最早千春どころではなかった。
うろたえる太郎をせきたてて町に買い物に行こうと誘った。
二人に手を引っ張られ、背中を押されて部屋を出た太郎だが、
直ぐに戻って来て千春に言った。
「千春ちゃん、おらちょっと怖い」
千春が返答する間もなく道子とみどりに連れ戻された。
「かっこ良くなってきてよ」
千春も励ました。
数時間後、太郎は大変身して帰って来た。
千春が見ても最初は誰だか分からなかった。
よく見ると道子とみどりの服装も変わっていた。
若者が好むジーンズに黒っぽいT-シャツ、白いスニーカーを履いていた。
頭に野球帽、サングラスを紐で首から吊るしていた。
「どう千春? かっこ良くなったでしょ、本当は眉も整えて
茶髪にしようかと思ったんだけど、太郎君嫌がって、
けっこう頑固なんだよ」
みどりが言ったが、しょうがないよ明治の人だもん、頑固どころか
ここまでよく二人に従った太郎を援護したいぐらいだった。
「すっごい、太郎君、もうこれでどこでも行けるね」
千春も喜んだ。
「あのさあ千春知ってる? 太郎君を着替えさせようとしたら・・・」
道子とみどりは顔を見合わせてフフと笑った。
「だってしょうがないよ、おらこれしか知らないんだから」
太郎の顔が真っ赤になった。
「ふんどし締めてたの」
女子二人がケラケラ笑った。
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