昔の人・今の人

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 自分は将来なにを すればいいんだろう、何が幸せに繋がるのか、 千春には分からなかった。  高校三年の若者には無限大の可能性がある。 それを一つ一つ考える事は無理だった。  昼近く千春は大きなおにぎりを数個作って畑に行った。  自分では自覚は無かったが自然に元気が出てうきうきしていた。  太郎は腰をかがめて土を掘り起こしていた、汗だくだった。 千春を見ると太郎は夢中になって野菜の話をし始めた。 「千春ちゃん、このきゅうりもう食べられるよ、こんなに大きくなって、 このまま食べるとパリッと音がして美味しいんだ」  嬉しそうに話した。  二人は藪の木陰に腰を下ろしておにぎりを食べた。 太郎は美味しい、美味しいとパクパク食べた。食事が 出来る事が太郎にとっては最高の喜びだった。  太郎は大きなおにぎりを頬張りながらチラチラと千春を見た。 千春と喜びを共有したいのだろう、千春も太郎と一緒に食べることが 大好きだった。しかし今日は浮かない顔をしていた。 「千春ちゃん、腹の調子でも悪いのか」  太郎が聞いたがううん、ちがうのと答えた。 「高校三年にもなると悩み事が一杯あるのよ、あ、太郎君も 同い年よね、学校行けば悩み事が多いのよ、 来年の就職や進学の事で」 「学校って寺子屋や塾みたいに勉強する所だろ、えらいね千春ちゃん、 すごい人になるんだ、おらも一杯勉強したかった」  学校へ行けるだけで千春を褒める太郎に申し訳ないと思う千春だった。 「私、勉強して大学行きたいの、東京の」 「えっ、東京ってあの・・・ 悪い奴が一杯いる所だ、 おら千春ちゃんに東京なんか行ってほしくない」  泣きそうになって訴える太郎だった。 「真理ちゃんの事考えてるのね太郎君、気持ちはよく分かる、 でも大学に勉強しに行くんだから心配ないと思うわ、 太郎君も来ればいいのに」  そうだ!  一緒に行けばいいんだと千春は目を輝かせた。 「おら都会の生活は自信ないよ、それに真理は都会に行くのが嫌で 首吊ったんだ、おら嫌だ」  その日の夕食時、千春は父慶二と進路について話し合った。        
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