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逆に太郎の一つ目小僧は面白く生徒に笑われたり小突かれたりした。
そんな和気藹々とした文化祭の一日目が終わろうとしていた頃、
太郎と千春がいるお化け屋敷にみどりが血相を変えて飛び込んで来た。
「千春! やばいよ、危ないよ! 岩田高校の西沢の奴等が来たよ!」
この町の千春の高校は山城高校、隣町の岩田高校とは
男子生徒がよく小競り合いをしていた。
千春をレイプした山城高校の不良のボス上谷智彦は磐田高校の不良
西沢義明と仲間だった。
西沢は上谷の入っている少年院に面会に行って事の経緯を聞いた。
「許せねえ、俺がその水谷千春っていう奴に仕返ししてやる」
西沢は上谷達を少年院に送った千春に報復しに来たのだった。
「私の模擬店に来て男子殴って水谷千春はどこにいるって怒鳴ってたわ、
危ないよ千春、殺されるかも知れないわ」
みどりは泣きながら千春の手を引っ張って逃げようとした。
その時、屋敷の外で男の怒鳴り声が聞こえた。
「水谷千春! どこだ!」
入り口が一つしかないお化け屋敷の中にいた千春は逃げ場を失った。
咄嗟に千春はその場に隠れた。
西沢と仲間2人は屋敷の道具やセットを蹴散らしながら千春を探した。
部屋の一番後ろに隠れていた千春は絶対絶命だった。
泣きながらわなわなと震えていた。
突然千春が隠れていたカーテンが引き裂かれた。
「お前が水谷千春か!」
西沢が千春の胸ぐらを掴み真っ黒い部屋から引きずりだそうとした。
恐怖で声を失った千春だったが、このままどこかへ連れて行かれたら
またレイプされる、次は殺されると思った時、
腹の底から振り絞って声を出した。
狼の唸り声だった。
西沢が驚愕の表情で千春の肩越しに後ろを見詰めた。
千春の背後から巨大な狼が牙をむいて西沢を見据えていた。
たてがみは長く、頭部は人間の倍以上あった。
真っ白の毛に黄色の目が恐ろしかった。
西沢は怖くなって咄嗟に千春を放し逃げ出した。
狼は千春を飛び越え西沢に襲い掛かった。逃げる西沢の足、
肩口を噛んだ、仲間の二人にも噛み付いた。
そのまま屋敷の外まで追いかけて行った。
「白神様だ」
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