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冬休み、都会の若者なら自分流にファッションして町の中を
楽しそうに闊歩するのだが、千春の地方ではそうはならなかった。
町へ行っても何もない、夕方早々には店を閉める、
下手に夜遅くまで町にいれば雪が積もって帰れなくなる恐れがあった。
冬休みって本当に退屈だわと千春はテレビを朝から晩まで見て
都会の生活に憧れた。
クリスマスは道子とみどりがやって来て派手に騒いだ。
外国の宗教行事に太郎は理解出来ないながらも彼女達と楽しんだ。
ケーキや料理が美味しかった、千春も料理が美味しい事に感激した。
心の中の真理にも感激してもらえるように一杯食べた。
大晦日、正月、現代では形式だけの行事にはなっていたが
太郎は感激した。
「こんな立派な正月迎えられて、おらやっぱり幸せもんだ、
生きてた頃は食べ物が無くて、寒くて寒くてこのまま寝たら
死んでしまうんじゃないかって、寝るのが怖かった。
正月どころじゃなかった」
大好物の餅をいくつも食べた。
年が明けると受験生は受験勉強に必死になった。
千春もカリカリしながら勉強していた。しかし、
学力は太郎の方が伸びていた。太郎には寝る必要がないのだ、
生身の人間では考えられない時間と勉強の量をこなしていた。
太郎は喜んだが千春は少々不満だった。
「何よ太郎君、勉強できるようになったからって馬鹿にしてない?
私を、どうせ私は出来が悪いですから」
千春の難しい心の変化に太郎は理解に苦しんだ。
「そ、そんな、おら千春ちゃんと一緒に勉強できて嬉しいだけだ、
千春ちゃんを馬鹿にするなんて、おら死んでもしない、
いや、一度死んだけど、おら千春ちゃんが大好きだ」
最後は消えそうな声になった。
急に千春の心が熱くなってきた。
千春は、太郎は真理を追ってやって来たのだと理解していた。
自分と一緒にいたいのも真理の魂が千春の体内に宿っただけで
自分には関係ないものと思っていた。
しかし太郎は初めて千春が好きだと言った。
冷静な千春がこんなに感激したのは初めてだった。以前、
好きな男子から告白されてもそんなに嬉しくなかった。
これは太郎君が私の名前を言った事で真理がよろこんでいるのか?
太郎が好きだという真理に少々嫉妬していた自分が恥ずかしくなった。
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