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風呂から上がった千春は太郎と一緒に熱いお茶を飲んだ。
「見ちゃった私・・・ 真理さんの幽霊」
「真理もどうしても千春ちゃんに会いたくて出てきたんだろうな、
あんなに痩せてた、薄い着物一枚で、
あの時代に生まれて死んだ真理はかわいそうだ」
やせ細った体、吹雪で薄い着物と長い髪がなびいていた姿は、
哀れというよりも悲愴だった。
千春の目に涙が溢れた。
「私、真理さんの心大事にする、何か嬉しくなってきたわ真理さんがいてくれて、
そうか、それでシロは私が家へ連れて行こうとしても動かなかったのね」
「うん、シロは真理を一人ぼっちにさせたくなかったんだ」
おらより頼りになるからねと笑った。
「あ、私シロの体触ってハッと気が付いたんだけど、
シロってメスだったのね、オッパイがかなり膨らんでたような気がする」
逞しいオスを想像していた千春は意外だった。
「でも・・・ 結局二人とも死んで、あの世で会って幸せに暮らせるんじゃないの?」
「分からない、おらシロの鳴き声聞いて我に返っただけで、
あの世の事なんか全然分からない、情けないけど本当だ」
申し訳なさそうに太郎は言った。
大学受験、千春と太郎は同じ大学を受けた。
二人は懸命に勉強した甲斐あって見事合格した。
千春は社会学部、太郎は農学部だ。
千春は社会学部に入ってもあんまり感心を引く科目がなかった。
東京の人混みの中での生活にうんざりしていた千春は故郷を思い出し、
東北の地域社会や歴史について勉強しようと考えた。
太郎は大好きな農業の勉強ができるので大喜びだった。
自分の家族や祖先が死ぬほど苦しんでもできなかった米や野菜
などの作物が素晴しいものになっていた。
特に米の種類と品種の多さに驚いた。
「こんなに色んな種類の米があるなんて、おら白いご飯だったら
なに食べても美味しいのに、トラクターってのもすごいね、
おらの家には牛がいなかったもんで爺ちゃんと父ちゃんが手で作業してた、
それで腰を潰した、おらもそうだった」
ため息をついて話す太郎だが近代農業に興味深々だった。
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