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同郷の道子とみどりも東京の大学に合格した。
道子は都内の女子大、みどりは武蔵野にある
看護大学に進学した。
住む所は千春の両親が同行し一緒に探した。マンション
とまではいかないが洒落たアパートだった。
「太郎君、千春のルームメイトになって面倒見てやってくれないか」
太郎の真実を知っている父慶二は心から太郎を信頼していた。
「こんな大都会に千春一人で生活させるなんて心配だから」
母文子も太郎を頼っていた。
勿論、千春は大喜びだった。
「太郎君、私の趣味で部屋のデザインするからね、手伝ってよ」
両親の心配をよそにはしゃいでいた。
大いに希望に胸を膨らませて大学に臨んだ太郎だったが、
一年の勉強は殆どが教養課程で内容も難しくつまらないものだった。
千春も同じだった。
真面目に授業には出ているが高校の延長みたいでつまらなかった。
千春はサークルに入ろうと考えた。
「おら嫌だそんな、人前で歌を唄うなんて生まれて一度もなかった
事だし、おら音痴だし・・・」
泣きそうな顔をして必死に抵抗する太郎を千春は許さなかった。
「だから、太郎君今まで経験しなかった新しい事にチャレンジするのよ、
決めた、一緒に入るんだから絶対」
嫌がる太郎の手を引っ張って二人は混声合唱団に入部した。
二人の声の音域から千春はソプラノ、太郎はバリトンとなった。
男子8人、女子12人の和気藹々としたサークルだが、
太郎は苦悩の表情だった。
「おら出来ないよ、訳が分からない、声も出ないしよその
パートに吊られてめちゃくちゃになるし、第一この楽譜って
何が何だか分からない」
最初から弱音を吐く太郎に部員の先輩や仲間達が根気よく教えてくれた。
混声合唱団の練習は週3日なので他のサークルと掛け持ちする
部員も多かった。
「じゃあ、太郎君はもう一つサークル選んでもいいわよ、
私は嫌だって泣かないから」
そう言われて太郎が選んだのは山岳友の会だった。
山岳とはいえ本格的な登山を目指す者もいればハイキング程度、
山だけではなく川下りや海で泳いだり、自然を愛する者が
休みを利用して活動するのだ。
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