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秋に混声合唱団の定期演奏会に出るのだ。
部員達は当然この日のために練習に励んでいるのだが太郎は違った。
「おら嫌だ、いくら考えても出来ないよ、恥ずかしくて本当に消えちゃうよ、
いや、それはマズイ、千春ちゃん何とかしてくれ、
おら、裏方でも何でもするから」
幼い駄々っ子の様に千春に訴えるのだった。
「ほんと楽しみだわ、ダメよ太郎君頑張らないと、
全員合唱のステージならいいけど、一年生のステージは
バリトンは太郎君一人なんだからね、責任重大だよ、
練習しようよ私が見たげるから」
夏休みの間、厳しい千春のマンツーマンのレッスンを受けて
太郎は意気消沈気味だった。
「こんな事になるならおら前の時代に戻って百姓してた方がよかったかも」
一人で呟いたつもりだったが、聞いていた千春は激怒した。
「何言ってんのよ! 冗談でもそんな事言わないで、
私が今ここで楽しく過ごせるのは太郎君のお陰なのよ、
シロも私を守ってくれたし、
真理さんが私の中にいるから嬉しく思ってるのに・・・
お願い、そんな事言わないで」
涙を浮かべながら怒る千春に太郎は詫びた。しかし、
心の中では困った困ったと叫んでいた。
「太郎君元気ないわね、あ、聞いたわよ合唱団の演奏会の事
で悩んでるんでしょ、心配ないわよ、
観客なんてジャガイモやかぼちゃだって思えば思いっきり唄えるから、
私も見に行くから頑張ってね、それより旅行を楽しまないと」
道子に言われてようやく元気を取り戻した太郎だった。
上高地は絶景だった。
梓川の清流、有名な河童橋、その遥か後方に穂高連山が見えた。
一般の観光ルートしか知らない四人は他のグループの
重装備の登山姿に興味を示した。
「あのグループの人達ね、奥穂高に登るんだって、言ってたけど
穂高には色んな秘境があって一般の観光地だけじゃ
勿体無いってよ、私達も行ってみようよ」
「止めた方がいいよ、こんな軽装じゃ行けないよ、事故にでもなれば
命取りになるよ、それに今はお盆だし」
自然の露天風呂に入りたかったみどりはしぶしぶ諦めた。
結局近くのキャンプ場で一夜を過ごす事にした。
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