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千春は身の危険を感じた。
不良はいきなり千春の自由を奪い茂みの中に連れて行った。
手足を拘束され口を塞がれた。
「誰にも言うんじゃないぞ、もしバラしたらお前を殺してやる、
お前の家に火をつけて焼き殺してやる」
数時間後、乱れた髪と衣服に付いた泥を呆然と眺めていた千春は
よろよろと立ち上がった。下腹部に激痛が走った。
鮮血が足を伝わって流れ落ちた。
ふらふらしながら家にたどり着いた千春は家に誰もいない事を確認してから
風呂に入ることにした。
この頃になってようやく正気に戻った千春は自分の下着で下腹部を拭い、
タオルでもう一度拭い、さらに別のタオルでもう一度拭った。
それを別々のビニール袋に入れた。
それからゆっくりと長い間風呂に入った。
「こんな事なら死んだほうがマシだわ」
どうせ学校へ行っても同じ事を繰り返されるだけだった。
PTA会長の息子や教育委員会の幹部のドラ息子には怖いものなど無かった。
犠牲者は千春だけではなかった。
千春は下着と二つのタオルに自分がレイプされた事を記し、県警本部、
教育委員会、学校に郵送した。
地元警察や教育委員会に送らなかったのは地元の有力者が事件を揉み潰して
しまうからだった。
名前を挙げた生徒と下着からのDNA鑑定で生徒の罪は逃れられないだろう、
しかし、私は死にますと最後に書いた。
山の上にたどり着くと目印にしていた大きな木に抱き付いて暫くじっとしていた。
奴等は警察に捕まる、これで学校のいじめも無くなるだろう、
ただ千春は生きる気力がなくなっていた。
安易な考えだとは分かっているが若い娘の精神をへし折るには十分だった。
千春は一本の太い枝に持ってきたロープをくくりつけ、
枝の上に登った。
輪にしたロープを首に掛け枝から飛び降りれば体重の何倍もの衝撃が
ロープに掛かり一瞬にして死ぬことができる。
「簡単だわ」
千春は自分に言い聞かせた。
枝を掴んでいた両手を離して飛び降りようとしたその時、
クークーという鳴き声が聞こえた。
ハッ、として前方の茂みを見ると巨大な真っ白い獣が千春を見詰めていた。
「犬? でも大きすぎる、尖った鼻、もしかして狼かも、まさか」
白い獣は千春に近付き大きな声でワオーと鳴いた。
狼の遠吠えだった。
その瞬間、千春はバランスを崩して枝から落ちた。
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