ハロー、アゲイン

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 あれは、あのシリーズでは珍しい殺人事件ものだった。それまでは、せいぜい誰かの大切にしていたものがなくなった、くらいの話だったのだ。  今までよりもっと年上の青年層をねらって、本格的な推理読み物にしようというたくらみがあったのかもしれない。  あれを読むのは、あのときの自分には早すぎたのだろう。きっとまだ、本の世界とリアルの世界の線引きがはっきりしていなかったのだ。  それでも、と心のどこかで思った。  あの本はフィクションだった。でも美紗は、それ以来、ニュースで報道される殺人事件がどんなに怖くてむごいものか、やっと理解できた気がしたのだ。  自分の暮らしている国が、世界中でも安全な法治国家であることは知っている。その中でも理不尽で残酷な暴力はあるのだと、外国ではもっと恐ろしいことが国家単位でおきているのだと、おぼろげながら考えることができるようになったのだ。
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