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美紗は、人が死ぬところを見たことがない。祖父母はすでに亡くなっているが、臨終のそのときに付き添っていたことはない。しかも、死ぬ予定のない元気な人が、誰かによって命を奪われるところに立ち会ったことなんて、なおさらない。
それが恐ろしいことなのだと身震いをしながら実感したのは、あの本を読んでいたときだ。
鍋の水が沸騰してくるのを待ちながら、美紗はカウンターに置いた本をながめた。
自分はこれからどうするつもりだったのだろう。
――あなたにはまだ早いからやめておきなさい。ショックを受けるわよ。
そう言って、読まないよう桃を説得する気だったのだろうか。それともこのまま黙って、返却の日まで隠してしまうつもりだったのだろうか。
「ママ、なんでそこに置いたの?」
気がつくと桃が手提げ袋を持って立っていた。テレビはコマーシャルになっている。手提げの中に本がないので探したのだろう。
「ああ、これね、ママが桃くらいの時に読んだことあって、懐かしいなあって」
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