ハロー、アゲイン

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 桃がやさしいことを言ってくれたから、その話にのっただけではない。  なんとなく気がついたのだ。自分はこうやって、この子が嫌な思いをしたり、苦しい失敗をしたりすることを、この子の人生から取り除いていたのかもしれない、と。  本来どこかで出会うべき挫折や、後悔の情や、危険なものへの恐怖などを、なくしてしまおうとやっきになっていたのかもしれない、と。  それは一見平和で優しい子育てかもしれない。でも、自分が桃に与えてやりたい人生とは違うものだ。そう思った。 「読んだら感想きかせて。これ、結構怖いかもよ」 脅すようにいうと、桃はけろりとして笑う。 「うん、知ってる。ヤバいって、かなえちゃんも言ってた。私、怖い話好きだもん」 鍋から湯気が立ってきた。美紗はスプーン付きの調味料ポットをとって塩をひと匙入れ、二人分の乾麺を投げ込み、タイマーをセットする。扇のようにひろがった黄色いスパゲティが白い湯気にあおられながら、ゆるゆると鍋の中に沈んでいく。 「あと七分」 「やだ、もうおなかすいたー」 そう頬をふくらませながら、桃は食器棚のほうへ行く。お皿を出してくれるのだろう。
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