11人が本棚に入れています
本棚に追加
『おかえり』
ふと、誰かにそう言われた気がした。
『今はもう怖くないでしょ、一緒に行きましょ』
あこがれの彼女が、美紗の手をとってくれる。はちみつ色のポニーテールが大きく揺れている。
『今度こそ、絶対犯人をつかまえましょうね』
敬語で話すのは、記録係の眼鏡くん。
鼻くんは無言。彼は寡黙なのだ。でも口元が笑ってくれている。
『もたもたすんな。行くぞ、最後まで』
団長はいつも偉そう。
美紗は胸がいっぱいになった。彼らはここで、いつでも私を待っていてくれた。
そして今からでも冒険はできる。こんどこそ、私は大団円にたどりつく。
そして桃と、この本の話をするだろう。
『ただいま』
心の中でつぶやいた。
――私、役に立つ本、偉くなれる本、自分を肯定してくれる本ばっかり探してたんだ。でも今はちょっとだけ、立派な母親をめざすのはお休みしてみようか。
美紗は胸のたかなりを感じながら、本を閉じた。今夜は、ぼんやりドラマを見るのはやめて、この本を読もう。
九歳のときに出会った彼らと一緒に、一度はあきらめた、あの謎解きの旅に出よう。
了
最初のコメントを投稿しよう!