ハロー、アゲイン

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「たっだいまー」 マンションの玄関に響く声は、外の暑さに今まで止めていた息を、いっきに吐き出したようだった。美紗は洗濯物をたたんでいた手をとめて、廊下に声をかけた。 「おかえり」 「暑かったー」 リビングに入ってきた娘の桃は、ダイニングをとおりぬけて、テレビの前のソファにランドセルをおろした。手にはお道具箱の入った手提げを持っている。  美紗は桃のいるソファから少しはなれて、ベランダに近いフローリングの床の上に座っていた。周囲には夫の下着、自分のカットソーとスキニーパンツ、桃のティーシャツやスカートが、種類別にたたまれて美紗をとりかこんでいる。目の前にはさっきまでたたんでいたバスタオルが重なっていた。  桃はキッチンの冷蔵庫のところに行って麦茶のボトルを取りだした。自分でコップを出して注ぐと、一気に飲み干す。  上を向いて喉を動かし、ごくごく飲んでいる。外側に水滴がつく暇(いとま)すらなく、空になったガラスのコップが、とん、とリビングのテーブルに置かれた。  今年で小学二年生になる。美紗によく似た丸顔は、頬が赤くなっていて、額に汗で髪が幾筋か貼りついている。薄桃色のティーシャツは、首のまわりが濡れて透けていた。
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