ハロー、アゲイン

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 衣類をタンスにしまうのは後回しにして、キッチンへむかった。ソファの脇をとおりすぎると、リビングの床になげだされた手提げ袋が目に入った。桃が入学するときに、美紗が作ったものだ。明るい花柄で、上履き入れとおそろいになったキルティングの手提げだった。 「こんなところにあるとママ踏んじゃうわよ」とちょっと大げさに注意すると「わかってるよー」と面倒くさそうな声が返ってくる。桃がソファから立ち上がる気配はない。  やっぱりこの子、素直じゃないかも、と美紗はさっきの考えにバツをつけた。  お道具箱の他に、手提げはもっとふくらんでいるようだった。  美紗は手提げの中をのぞいた。  中には単行本サイズの本が一冊入っていた。防護用の透明なシールがほどこされていて、小学校の図書室のラベルが貼ってあった。図書室で借りてきたのだろう。 ――へえ、あの子、学校ではこんな本を読むんだ。 表紙をながめた。アニメっぽい絵柄のキャラクターが書かれたにぎやかな表紙だった。  美紗は、自分の知らない新しい本だと思い、タイトルを見て驚いた。  それは美紗が昔、図書館でむさぼり読んだ少年探偵団のシリーズの一つだったからだ。
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