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普通に生活していて、突然誰かの悪意で殺されてしまうなんて。しかも被害者はダイイングメッセージを残すのだ。
自分があとわずかで死ぬ、とわかっていて手紙を書くなんて、どんなにつらいシチュエーションだろう。美紗はそれだけで泣きそうだった。
ぱらぱらと先のページをめくってみても、すくいになりそうな気がしなかった。もちろん最後に犯人はつかまるだろう。でも、死んだ人は生きかえらない。
自分の勉強机の上に置いたまま、それを再び手にとることはなかった。机の上のその本は、何か不気味な置物のようだった。その書影をみるたびに、美紗は死というものを考えた。
そのうちに返却期限がきてしまい、美紗はなにか後ろめたい気持ちを抱えたまま、読みかけの本を図書館に返したのだった。
美紗はキッチンに立った。食器棚の側面についたフックに、愛用のエプロンがひっかかっている。それをとろうとして、はじめて美沙は自分の右手がふさがっていることに気がついた。
いつのまにか、あの本を持ってきてしまっていた。自分はこれを無意識に桃からとりあげたのだろうか。
しかたなくキッチンとダイニングとを仕切るカウンターに置いた。エプロンを身につけ、いつもどおり、コンロ下の大きな戸棚をあけてパスタ鍋を出す。水を入れて火にかけた。
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