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「白米がたべられなかったのか」
タツオはぽつりと漏らした。現代の日乃元ではまず考えられないことだった。となりの白い石柱からジャクヤの声が聞こえる。
「ああ。白いごはんはおいしすぎて、人の感覚を鈍らせ、呪法(じゅほう)の力を弱くするといわれているんだ。天童の家ではね」
「なら、ぼくは逆島家の生まれてよかったな」
ジャクヤは低く笑った。
「その通りだ。白米の代わりに木の実や山に生えている草をたべたんだ。修験道の木食(もくじき)なんかと同じだよ。子どもの頃からずっとね。ぼくは胃が縮んでしまって、今ではなにをたべても太れない」
女皇を守る近衛四家はみなどこか普通の家とは異なる異質なところがあったが、筆頭の天童家は一段と変わっているようだ。ジャクヤは懐かしそうにいう。
「たまにおにぎりなんかを村の人にもらうと、涙がでるほどうれしかった。あれはおいしかったなあ。まあ、子どもなんかは天狗(てんぐ)の子だといって、石をぶつけてきたけど」
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