19(承前)

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 タツオは自分の幼少時と比べてみた。池のある庭があり、別荘があり、ときに女皇に近しく謁見(えっけん)することもあった。学校も女皇家や貴族や高級軍人の子弟専用のところに通っていた。 「ぜんぜん豊かじゃないんだな」 「ああ、近くの山はすべて天童家のものだといっただろ。そこに遠い親戚をふくめた分家が数十軒も住まわされていた。村をつくるんじゃなく、ばらばらに孤立してね。年に一度、呪法くらべをやらされる。十二歳以上のすべての子どもが山のなかに放りだされ、最後にひとりになるまで戦わさせられるんだ。食料もなにももたずに。みな、ただ『祭り』と呼んでいたよ」  十二歳で山のなかで戦いながら、ひとりで生きる。タツオの想像を越えていた。自然と声が低くなった。 「凍えたりしないのか」 「夏の夜だからだいじょうぶ。明け方はそれなりに冷えたけどね。毎年のように天童家の子どもが何人か、山のなかで死んだよ。谷に落ちることもあれば、仲間に殺されることもあった。死ぬのはたいていちいさな子だったな。十二歳から十八歳まで参加するんでね。夏休みはいつも地獄だった」
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