0人が本棚に入れています
本棚に追加
――
「全部沈んじゃえばいい」
唐突に君がそういうものだから、僕はしばし瞬きを繰り返した。
「全部水の中に沈めばいい」
もう一度君が言ったものだから、「どうしたの」ようやく僕は問いかけた。
「そしたらみんな、呼吸できなくなって黙る」
「……ああ、それはそうかもしれない」
全国展開している有名ファーストフード店の安っぽいポテトを放り込み、僕はあいまいに賛同した。
君と僕はこれから映画を見ることになっている。話題になっている、ヒーローものだ。君が誘ってくれた。
あまり普段は見ないジャンルなのだが、テレビで話題にされているからなのか、僕は始まる前からそわそわした心地だ。
背後で笑い声が上がる。女子高生の声だ。入る前に確認した。確か店の近くに、高校がある。平日の3時半、となれば家に帰りたくない学生がたむろする場となるのだろう。
なるほど、君は彼女らにいら立っているのか。
そんなことを思いながら、僕は“水の中に沈む”世界を想像しはじめる。
頭上にあるのは揺れる水面。光がゆらゆらと揺れながら届く。
テーブルにいる女子高生は、みなふくれっ面で黙っている。
子供はぷかぷかと息を吐いて遊び、親に注意される。
君の長い髪はふわふわと水中に漂う。
その横を海の生物が――
最初のコメントを投稿しよう!