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「――水の中に沈んだら、ここは海だろうか」
ポテトの塩っ気のせいか、不意にそんなことを思った。
「海が近いし、そうじゃないの?」
君が答えればすぐ、魚の大群が目の前を通り過ぎる。
すぐ横にクラゲが浮いている。
ショートパンツをはいているため、君の日に焼けた足は無防備だが、刺されないだろうか。
厚底サンダルの足元にはヒトデやサンゴ。熱帯魚が君の周りで遊んでいる。
「水族館いらずだなあ」
「デートスポットが一つ消えるわね」
「もっと消える。海、海が見える丘と山、レストランだ」
「でも夏場、太陽がまぶしくなさそう」
「そうだね、ゆらゆらとして美しい」
ストローに口をつけ炭酸を吸い上げる。ほのかに甘い水が舌の上でぱちぱちとはじけた。
僕は息を吐き、気づいた。
「そういえば、僕らが吐いているのは本当に酸素だろうか?」
「なんで?」
「いちいち空気を吸いに上にのぼっていては、別の意味でうるさいだろう」
「うーん。じゃあ、一生のうちに吐ける量に限りがあればいいじゃん」
「言葉を交わすのにも命がけだなあ」
「確かに」
そうして僕らは黙った。
僕は君のいうそんな世界を想像した。
言葉を発するのにも命がけ。それなら僕はなにを口にするだろうか。
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