誕生日

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 8月。今日はおれの誕生日だ。 毎年、この日は鬱になる。良い思い出もそれなりにあったはずなんだが、最近ではあまり良い思い出は無かった。誕生日だからといって、これと言って予定も無い。かといって家に帰っても家族に心配を掛けるだけだ。  おれには妹がいる。歳が離れていたが、最近では 身長が伸びてきて、もう少しで追い越しそうだ。両親は年の離れた妹より、おれを溺愛している。それが気に入らないのか、妹はおれが家に帰ると露骨に嫌な態度をとる。本当は帰りたくないのだが、仕方ない。おれの家はあそこだけだ。  昔からガラス張りの向こうは夢のような世界だった。色とりどりに盛りつけられた豪華なそれはおれのみならず皆の視線を釘付けにして離さない。罪なことだ。しかし、もう一つ罪なことがある。その中からたった一つを選ばないといけないことだ。派手さの中にも気品があるそれはどれもが美しく、全てを手にしたい誘惑にかられる。だが、おれにはその究極の選択をする権利がない。仕方なく、ガラス一枚に阻まれた夢の世界をおれは後にした。
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