車の中で

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「何かをするのに理由が必要とは思いません。ですが必要ないとも思いません。理由があろうが無かろうが人は何かをするものだとわたしは思います。 使い古された例えですが、生きるのに理由は必要ですか? というアレと同じです。 必要だという人もいれば必要ないという人もいる。理由が無いなら自分で見つけてしまう人もいる。 全部正解です。 ですからこれはわたしにとっての回答です。 何か理由が無いと旅に出れない。旅を続けれない。理由が無いと生きて行けない。そういう考えが少々窮屈に思えるのです。 なんとなく行儀が良すぎて。もうちょっと人間、勝手にしてもいいのではないかと。 そんなことを考えています。 理屈をこねているうちにただの屁理屈になってしまいましたが、そんな感じでしょうか」 「なるほどねぇ」 「納得いっていただけましたか?」  男は鼻で笑った。 「いいや、全然だ」 「そうですか」 「でもあれだ。あんたは面倒なタイプの人間だ」 「よく言われます」 「旅に出る理由は無いくせに理由が無い理由はあるんだな」 「そういう言葉遊びは嫌いではありませんが、それではあなたも面倒な人間ということになってしまいますよ」 「ああ、よく言われるよ」  そして。 「ここでいい。停めてくれ」 「まだ思っていた場所から遠いように思えますが」 「もう充分だ。そこの脇に車を停めてくれ」
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