車の中で

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 少し道が広くなっている場所があったので、そこに車を停めた。  男はドアを開けるとまず、左足を出して大きく伸びをした。 「ああ、狭い車だった。よりによってこんな車に乗っちまうとはねぇ」  あくびまじりに言うと、右手に持っていたナイフをわたしの喉元から外した。 「いいか、俺と別れたらすぐUターンして山を降りろ。あとはどこに行くのも勝手だ。 これまでどおり理由の無い旅を続けてくれや」 「正直、このまま無事に開放されるとは思いませんでした」 「その割にはずいぶん流暢に喋っていたじゃないか」 「それは誤解です。正直なにを口走ったか覚えていません。シャツなんか汗でぐっしょり濡れています」 「それは悪かった。ちなみにこのままこの道を行くと俺の仲間が待っている。本当言うと後は仲間次第ってとこだったんだ」 「ではなぜ?」 「さあね」  男は車から降り、銀行から奪ったお金の入ったバックを重そうに持ち直した。  ポケットからタバコを取り出す。ライターはいつの間にか拾っていたらしい。  ゆっくりと火をつけゆっくりと吸い込みゆっくりと吐き出す。  そして。 「理由が必要か?」  そう言うと、わたしの答えを待たずに山を登っていった。
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