2人が本棚に入れています
本棚に追加
少し道が広くなっている場所があったので、そこに車を停めた。
男はドアを開けるとまず、左足を出して大きく伸びをした。
「ああ、狭い車だった。よりによってこんな車に乗っちまうとはねぇ」
あくびまじりに言うと、右手に持っていたナイフをわたしの喉元から外した。
「いいか、俺と別れたらすぐUターンして山を降りろ。あとはどこに行くのも勝手だ。
これまでどおり理由の無い旅を続けてくれや」
「正直、このまま無事に開放されるとは思いませんでした」
「その割にはずいぶん流暢に喋っていたじゃないか」
「それは誤解です。正直なにを口走ったか覚えていません。シャツなんか汗でぐっしょり濡れています」
「それは悪かった。ちなみにこのままこの道を行くと俺の仲間が待っている。本当言うと後は仲間次第ってとこだったんだ」
「ではなぜ?」
「さあね」
男は車から降り、銀行から奪ったお金の入ったバックを重そうに持ち直した。
ポケットからタバコを取り出す。ライターはいつの間にか拾っていたらしい。
ゆっくりと火をつけゆっくりと吸い込みゆっくりと吐き出す。
そして。
「理由が必要か?」
そう言うと、わたしの答えを待たずに山を登っていった。
最初のコメントを投稿しよう!