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その街は、猫の街と呼ばれているそうだ。
確かに宿に着くまでに多くの猫を目にした。
猫好きのわたしとしては、早々に荷物を置いてカメラを持って街中を散策したいところなのだが、それは止めておく事にした。
あまり大きくないこの街で今日、葬儀が行われるそうなのだ。
亡くなったのはかなりご高齢のおばあさんだという。
店番のために残った宿の娘さんからそう聞かされた。
この宿は宿泊だけではなく、食堂と酒場も一緒に経営しているらしかった。
娘さんはその食堂の方の店番なのだろう。
猫が好きで、大きな鍋を何個も手押し車に乗せて、街中の猫に餌をあげて歩くのが日課だったという。
それではこれから猫たちのご飯はどうなるんでしょう?
と聞くと。
もう数ヶ月前から、足を悪くしたおばあさんに代わり、お孫さんがあげているのだそうだ。
「あなたも葬儀に顔を出せばよかったのに」
「ここへ来るまでにも、何度かそう声をかけられましたが、遠慮しました」
「そんなのしなくて良かったのに。おばあちゃん、賑やかなの好きだったから」
カウンターに頬杖をついて、娘さんが笑う。
その笑った目が、なんだか猫みたいだった。
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