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翌朝。
少し早めに起きたわたしは街を散歩してみることにした。
道端や壁の上、木陰の中、荷車の下。
様々な所にいる猫たちを眺めていると、手押し車に大きな鍋を何個も乗せた若い娘さんを見かけた。
おばあさんの孫娘なのだろう。
一匹一匹に声をかけながら餌をあげていく。
通り過ぎざまに軽く頭を下げたのだが、ちらりと顔を見て、わたしが猫ではないとわかるとそのまま次の餌場へと足早に去っていった。
充分に猫たちを堪能し、日が昇り切る前に出発しようと宿を後にすることにした。
お会計をしていると、宿の娘さんが、ふいと近寄ってきた。
「行くの?」
「ええ、お世話になりました」
「そう、気をつけて」
それだけ言って、2階へ上がってしまった。
本当に、ここの街の人たちは。
人懐っこくて、素っ気なくて、気まぐれで。
猫そっくりだった。
車に乗りこみ、ちょっとだけ寄り道することにした。
そこは、墓地。
おばあさんのお墓があるところだ。
おおよその場所は昨日聞いていたので、すぐにおばあさんのお墓を見つけることが出来た。
ただ、そこには先客がきていた。
真っ白で
耳の先が茶色い
大きな
ペルシャ猫。
彼女は飼い主だったおばあさんの墓の前で。
誰もいない墓の前で、時が止まったように、墓石を見上げていた。
まるで、いつものように飼い主から声をかけられるのを待つかのように。
いつから居るのか。
いつまで居るのか。
よそ者であるわたしに、そのふたりの時間を邪魔する権利はない。
静かに後ずさりすると、そっとカバンに手を伸ばす。
そして、真新しいお墓とおばあさんの唯一の飼い猫にカメラを向けた。
レンズ越しに見えるふたりが
少しだけにじんで見えた。
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