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2章 新人 ノラねこ
「あの頃は本当につらい時期でしたね。」と、彼は語る。そう言う彼の横顔は複雑な表情をしていた。おそらく過去を振り返っているのだろう。僕も今までの数年間を振り返ってみた。うん、良い1日だと思えた日もあるし、惨めな日もあったな。ノラなら誰もが似通った生き方をしているだろう。そんな事を考えていると、できるノラねこの彼は、
目を瞑りながらノラになったその日からの生活を語ってくれた。
隣人であった人間から捨てられたことを教えられた後もしばらくはじっと戸の前で主人を待つことにした。幸い、天気も良くほかに行く当てもないため、その夜はそこで寝ることにした。翌朝になっても戸は開くことはなかった。今までなら主人が起きる時間になっても物音は立たず、いつもなら出かける時間になっても戸は開かなかった。そうして待っていると、隣人は外に出てきた。私を見る目は昨日と同じで困り顔で、「まだいるのか」。なんて横目で見ながら出かけて行った。だんだん日も高くなり喉は渇き、腹も減ってきたので少し出かけることにした。外にいれば主人に会えるかもしれない、夕方になれば主人も帰ってくるかもしれない。イエネコであると思っている自分にとって主人と暮らす以外選択肢がよく分からなかったから。
結論から言うと、2度と主人に会うことは叶わなかった。それもそうでしょう。だって今もノラですから。徐々に自分がイエネコでなくなり、ノラになった自覚と実感が沸いた頃、これからどうやって生きていけばいいのかを考え始めました。
「私がノラとして最初にしたことは、食べ物の調達と寝床の確保。まず、イエネコ時代にあって今の自分にはなくなったものを順番に手に入れること。それの代わりを探すこと。特に食べ物と寝床には、気を使っていました。綺麗なものしか食べてこなかった私、鳥とかの捕まえ方も食べ方も知りません。寝床もクッションとか暖かい場所でしか寝たことないイエネコにとって外は厳しい。ノラでも家で過ごしたい。その方法は偶然見つけました。」
彼が言うには、ネコ好きな人間の家を訪問する方法だった。僕もそれは知っていて自分でも挑戦したことはあった。そこまで聞いて話の長さの割りに大したことをしていなくて正直がっかりした。これで「できるノラネコ」とは笑わせてくれる。でも、ここからがノラネコ出身とイエネコ出身の違いだった。
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