2章 新人 ノラねこ

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 できるノラねこの一日は早い。  そう、ノラ歴3年の彼は言う。 「この3年間で私の生活は洗練されてきました。今日は、新人である君に私の流儀を付きっ切りで伝授しよう。」  彼は3年前までは”イエネコ”の身分であったそうだ。気が付いた頃から”ノラ”である僕とは違い、安定した身分であるイエネコ。安全な食事に屋根の下で温かい寝床が安定供給され、ケガや病気をすれば適切な治療を施されるというノラなら誰もが一度は夢見るイエネコ生活。だが、彼のそんな生活も突如終わったという。 「突然でした。私がいつものように遊びから帰宅すると、私の呼び声に気づいて戸を開けてくれる主人がその日に限っては戸を開けることはなかった。繰り返し呼び続けているうちに近所の人間がやって来て教えてくれました。」  彼は、隣に住む人間でお互いに面識もあり、信用できる人間であった。 「なんだお前、一緒に引っ越さなかったのか?」  彼は私に更に1つ疑問を与えた。引っ越し?そんな話は主人から何も聞いていない。そもそも引っ越しとは?  家を前にして家に入ることができない当時の私には到底理解できることではなかった。とりあえず、信用できる人間が来たので甘えてみることにした。彼なら戸を開けてくれるかもしれない、そんな下心あっての行動。しかし、彼はそんな私を見て憐れむように私にも分かるように話してくれた。 「お前は捨てられたんだよ。可哀相だけどな。強く生きろよ。うちでは猫は買えないからさ。」 その時をもって私の生活は”ノラ”として生きていくことが決まった瞬間でもあった。
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