彼女は●●●●

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「ふぇぇ……いたいですぅ」  女の子座りで後頭部を抱える彼女は、黒のワンピース姿だった。  肌は白いが、髪の毛のほうも墨を塗ったような濃い黒色で、艶やかな光沢があるほどだ。そして頭の頂点から、二本のアホ毛が左右前方に伸びていた。 「お前、人んちで何やってるんだ?」  冷めた声に徹して浩太は訊いた。すると女の子は、頭の後ろを撫でながら、えへへと微笑し、上目遣いで浩太を見てきた。 「あ、ここの家の方で――えっと、おかえりなさいませ、ご主人さま――ですぅ……」  今度はメイドか。不覚にも、かなり可愛かった。数秒、見とれてしまっていた。我に返った浩太に、彼女は告げた。 「何といわれますと、ちょっと食料をいただこうかと……」  イタズラがバレた子供のような表情をした。 「食料……って、お前が漁ってたの、流しの三角コーナーだろ」  普通食べ物を探す場所ではない。三角コーナー自体も、抗菌だのカビ防止だのと謳っている商品が多いが、結局は黒ずんで不衛生になる。  そこでふと、浩太は閃いた。  もしかして――貧しい家の娘なのだろうか。だから、他人の家に忍び込んで、食べ物を拝借しているのだろうか。  そんなふうに考えて、少々同情の気持ちが芽生えつつあったところで、彼女の言葉が割り込んできた。 「そうですが、わたしにとっては十分なご馳走なので」  やっぱり――。 「家が貧乏なんだな……。だからこんなことを……」 悲痛に浩太は呟いた。が、相反して彼女の表情はあっけらかんとしていた。 「ああいえ、そういうわけでは――普段から、この三角コーナーはわたしの食料調達場所だったので」 「ん? 食料調達?」  何かおかしな表現が登場した気がした。食料調達。普段から――。 「はい、そうですよ? ここには安定して食料が集まってきますので」 「お、おう……。そうか」  あまりに平然としているので、突っ込めない。 「でも、腹壊すぞ」  そこまでいって、なぜ不法侵入者を気遣っているんだろうと、おかしな気持ちになった。  そんな浩太をよそ目に、女の子はからからと愉快そうに笑った。
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