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愛車
弟の口から言うのも何だが、俺の兄は実に熱しやすく冷めやすい性格だ。
何かに夢中になるととことん入れ込むが、熱が冷めれば一瞬で興味を失くし、昨日の宝物が今日はゴミ同然になり果てたことも珍しくはない。
そんな兄が、長年欲しいと望んでいた外車を対に手に入れた。
昔雑誌で見て惚れこ込み、いつか乗りたいと切望したが、何しろ高価なものだから簡単には手に入らず、何年も資金を貯めてやっと手に入れたのだ。
その喜びは相当で、この車だけは廃車になるまで乗るのだと、そんなことまで口走る程だった。
でも、人間の性格はそうそう変わるものじゃない。
案の定、兄はその車にも飽きた。
兄という人間を知ってる者からしたら、五年も同じ車に乗っていたのは奇跡のような状態だったが、あんなに何年も欲しがって手に入れた物ですら、あっさりいらなくなってしまうのかと、つくづく兄の性格に溜め息を吐いた。
長年コツコツと金を溜め、やっと手に入れて、ずっと乗り続けると言われていた車は、数年保ったとはいえあっさり飽きられ、廃車となった。…いや、正確には、廃車せざるを得ない状態になった。
思い立ったらすぐ行動の兄は、ディーラーとやりとりをし、咲いて死をしてもらったすぐ車を下取りにすると言い出した。そして車屋へ向かう途中、事故に遭ったのだ。
大型トラックと正面衝突し、兄は即死。車は大破して廃車決定となった。
この車は廃車になるまで乗る。…みんな、表立っては言わないけれど、兄のその言葉が実現してしまったと、通夜や葬式の席でもそっと囁いてたよ。
愛車…完
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