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無言のざわめきと、人々の息遣いで目が覚めた。痛む首を回して、固いカーテンを開けた。
縄文人らしきイラストが描かれた、大きな看板が目に入った。薄暗い朝日の中に、全く建造物の見当たらない土地が広がっている。まだ私の目的地ではないらしい。ペットボトルに手を伸ばし、水を飲んだ。ぬるい液体が喉を伝って、気怠さを助長させる。
運転手の声がバスの中に低く響いたのを合図に、いよいよ人々の慌ただしい物音が車内を泡立てた。
こんな所で降りてどうするのだろう・・・未だ働かない頭で考えてみる。降車する人々は中高年ばかりであった。みな一様に、似たような体型をしていた。玉子のようにコロンと丸い。その手にはカーボン製の杖らしきものが握られ、背には子供が入れそうな大きさのバックパックが負われていた。
どうやら、登山客らしい。天気はあまり良くないようだが、それでも登るのだろうか。私には理解できない。母も夫も登山部だったにも関わらず。
もう一度、外を見た。灰色の空、麦芽畑が広がる白銀の大地。もう岩手に着いていた。
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