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治療で一財産使ってしまったから、豪勢な旅は望めそうになかった。どちらにしろ、そんな気持ちにもなれない。若い頃よく利用したユースホステルを思い出し、ホームページを検索して花巻へ行くことに決めた。
岩手へは高校の修学旅行で行ったことがある。運動音痴な私はスキー旅行だと知って、ひどくがっかりしたものだ。体調不良のメンバーは、花巻で宮沢賢治記念館へ行ったと後から聞き、その方がどれほど良かったかと思った。八幡平のスキー場は、一メートル先も見えないほどの吹雪で、インストラクターの声もよく聞こえず、うんざりした。
特に宮沢賢治が好きだったわけではない。中学時代に『オツベルと象』を習ったことがあるだけだ。それが『花巻』という地名を見た途端、今更になってこの一節が思い出された。
ーー「ああ、ありがとう。ほんとにぼくは助かったよ。」白象はさびしくわらってそう云った。ーー
引きつったままの子宮は、感謝することも疲れたと言っていた。夜行バスとユースホステルを予約すると、出かける日の朝に一泊してくることを夫へ伝えた。
夫は短く驚きの声を上げ、
「なんで?」
と不満げに言った。しかし、それだけだった。私が何か言おうとする前に、その目から関心の色が消えた。いつも生理が来たことを伝えた後に見せるのと同じ反応だった。
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