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夫の葬儀を密葬同然に済ませて二ヶ月後、私は家で働いてくれたお手伝いのランとジャネット、庭師のディックをねぎらい、三人の家族も誘って別れの夕食会を催した。
ここに移住しておよそ二十年。三人は私たちにとてもよく尽くしてくれた。
放蕩なあの人のことは好きじゃなかったみたいだけど。
「奥様、ぼっちゃん、お嬢様。どうかお健やかに」
「元気でね、ラン。ひ孫が生まれたら教えてよ」
両手で顔をおおって泣くランを、明人が抱き締めて慰めている。
三人には心尽くしの品と、しばらくは働かなくとも穏やかに暮らせるだけの報酬を受け取ってもらった。
その日の夕方、日本の父に電話をかけた。
明後日帰国して館に住むと伝えると、父はいつものように静かな声で『そうか』とだけ言った。
部屋なら有り余っているから不便はないはず。だけど、普段の父よりほんの少し、声のトーンが低い。
そうね――その日はあの子の命日だものね。
「帰ったら、戻る前に可奈子に挨拶してくるわ」
『そうするといい』
そして、思い出すのはあのひとのこと。
「……彼は、元気? お父様」
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