帰国

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 あの人が、逝った。  痛みも悲しみも苦しみもなく、胸のうちはすっきりとしていた。  私自身、怖いくらいに。  あの人は知らなかったでしょうけど、住まいを引き払う手筈も整っている。  林の父、林宋暎氏が運営している不動産会社に依頼して、速やかに上海の資産整理を始めた。  その日の夜、子供たちに帰国することを伝えると、二人はすんなりと受け入れてくれた。 「友達と会いたくなったら、また遊びに来ればいいわ」  そう言ったのは長女の美鈴。  生まれ育った国での思い出よりも、父親との思い出のほうが薄かったのだと知る。
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