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 エルフリーデは少々焦っていた。 神に魂の浄化、つまりは天上への案内を願えるのはエルフリーデの見える範囲に限られており、神官達は全力で彼我の戦死者を集めてはいるが、地隙に落ちたり深手を負って森に入り込み力尽きた者なども多く、日が没した今これ以上の回収は神官が襲われる可能性もあるため諦めなければならなかった。  神官達に集合を命ずると、回収できた最後の死者を数人で抱えながら疲れ切った表情を隠そうともせずに集まってきた。  エルフリーデは積み重ねられた死者を見渡した。  矢や刀で出来た傷のない不思議な戦死者は魔物の存在を示すものである。 魔物には生命だけを吸い取るものと屍肉を貪り食うものがいる。 陽の高いうちに現れる魔物は前者で、それだけの力のある魔物は滅多にいないことからエルフリーデには以前神殿で見かけた旅猫の仕業であろうと見当がついていた。 森に巣くう雑多な魔物は後者であり、夜の帳が降りると活発に動き出す。  浄化されなかった魂が入った遺体を魔物に食い荒らされると、魔物の中で魂が悪霊にかわり人々に害をなすと信じられていた。 「失礼」 背後から声を掛けられてびくっと震えたのは魔物のことを考えていたことに他ならない。 魔物が声を掛けて来ることがないと気付き、苦笑しながら振り向くと20歩ほど離れた道路上から馬上のハロルドが顔だけを右側に向けてこちらを見ている。 「はい」 多分声を掛けられたことに気付かなかったらこの方はこのまま東進して行っただろう。 「段列長は?」 「私です」  ハロルドは馬車の隊列に行けと手で示してから下馬をし、手綱を引いて近付いてきた。 道路からここまでは草が茂っているだけで平坦であるので、これは自分に対する礼であるとエルフリーデは気付き、ハロルドに正対して右足を後ろに引いて左膝を軽く曲げて敬意を表した。 「神官長の仕事を邪魔したかな?」 「いえ、あとは神にお任せするだけなので」
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