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 蝋燭の火の揺らぎを感じてレオナルドが視線を机に向けると、羽根ペンを置いたエリカが椅子に座ったまま背伸びをした。 蜜蝋の甘い香りが漂う部屋の中で、エリカはディルクのため羊皮紙に約定を記していたのだ。  レオナルドは寝台に座っている。 ここに来てからリーナは何故かレオナルドにも甘えるようになったので、寝かしつけるのをエリカに任されたのである。  リーナは顔を少しレオナルドの方に向けた状態で寝息を立てている。 レオナルドは右手をそっとリーナの頭から外した。 「これでいい? ディルク男爵」 ディルクはエリカから受け取った羊皮紙の文面を燭台に向けて確認してから 「確かに」 と満足そうに言った。 「下に食事が出来ています」 部屋の入口でトーマスが声を掛けた。 やっと終わったかという気持ちが隠しきれていない。 「私は休むから、食べていらっしゃい」 「では失礼。食事後は弾丸を作るので」 ディルクは退室し、トーマスに先導されて階段を下りていった。 エリカは椅子から立ち上がると、ふぅと肩で息を吐いた。 「お疲れ」 レオナルドが立ち上がるとエリカは両手を伸ばし 「ぎゅっとして」 と催促をした。 近付くとエリカの方から抱きついてきたので、レオナルドは望みどおり抱きしめてから軽く頭を撫でた。 「レオン」 「なに?」 「疲れた」 「うん」 決して他人の前では使わないであろう「疲れた」という言葉を聞いて何か得をしたような感覚を覚えた。 ぐったりと身を任せるエリカを寝台に運んで座らせ、靴を脱がせるとリーナの隣に横たわらせた。 「起きているのも辛かったんだな。よく頑張ったね」 「・・・安らぎに満ち、人々が気ままに暮らせ、レオンが穏やかに笑っていられるような、そんなふうに出来たらな」 エリカは目を閉じたままそう言うと微笑んだ。 レオナルドがエリカの髪をゆっくりと撫でながら、うとうととしていると 「やれやれ」と背後から声がした。 いきなり現れるこの感覚はエリカが倒れたとき現れたものと同じだ。 「旅猫か」 振り向くと金髪の少女がそこに立っていた。 「ヨランダと呼ぶがよい」 「何の用だ?」 「立ち上がってこちらへ進むがよい」 「?」 「そこにはその女の結界がかかっておるのだ」 「その女の結界? ああ、リーナか」 レオナルドは立ち上がると寝台から離れた。 「魔術師の結界に旅猫が入れないというのは初めて知った」
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