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「止まれ」 シュルツは包囲環を縮めるために前進中の歩兵隊に停止を命じた。 まだ80歩以上はある彼我の中間点に2名の男が進み出たからである。  2人のうち1人は青年で、麻袋を被ったような見窄らしい服を着て武器らしい物は持っていない。もう1人はシュルツと同じくらいの年齢であろうか、ホーバークを着込み、マスケットを立てた状態で銃口の近くを握っている。 開戦直後に現れた敵騎士と違い、不利な態勢に陥った軍勢から進み出たということは、彼らの代表として何らかの交渉の意思、おそらくは停戦の提議をしたがっているのだろうとシュルツは判断した。 「殿下に伝令、敵は軍使を立てり」 「はっ」 シュルツと目が合った歩兵が1名後方に走った。 統合軍の3人の指揮官、すなわち歩兵隊長のシュルツ、弓兵隊長のライナー、騎兵隊副隊長のフェリックスの中ではシュルツが先任者となるため、シュルツの独断で交渉を纏めてもエリカは良しとするだろうが、微妙に想定していた状況とは食い違っていることに気が付いた以上、伝令を出すのは部下の当然の責務だとシュルツは考えた。 「旗を揚げよ」 シュルツの後ろにいた旗手が右手を真上に伸ばし、軍使を受け入れる意思のあることを示した。 「あれ? あいつは」 列中からシュルツに届く大きさの声が上がった。 「手ぶらでこっちに来る奴は殿下の犬ですぜ」 「なに?」 「確かフュンフとかいう奴です」 この場合、犬というのは飼い慣らしたどう猛な狼を意味し、嘲るというよりも気を抜くとこちらがいつ噛まれるか分からないというニュアンスを含んでいる。 「お前達、交渉している間敵の動きに気を付けろ。不審な動きがあったら知らせろ」 「はっ」  2人の男がシュルツの5歩前に来た時、シュルツは軍旗を降ろさせた。 「護衛の銃士はそこでお待ち願おう。軍使殿のみこちらへ」 「待たれよ」 マスケットを手に提げた男が言った。 「我は護衛にあらず。軍使なり」 「それを持って会見に臨むとは、いかなる意図ありや」 軍使は丸腰であるべきだなどとシュルツは思っていない。帯剣のみであれば「左様か」で終わるところであるが、マスケットを護身用だというのは無理がある。そのため説明を求めたのである。
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