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「我々は雇われし者なれば不利を押してまで戦う義理はない。こちらが不利と確認できる証があれば、降ることに皆異議はないが」
マスケットの男はそう言うと隣にいたフュンフを見た。フュンフはその言葉を引き取るように
「えっと、この人が言うには、領主の軍は王女の軍だから、王女を倒せば俺達の勝ちだ。そう言われて確かにその銃で撃ったはずだと」
「それは興味深いこと」
背後から声がした。
シュルツが振り向くと軍旗の後方にエリカとレオナルドが手を繋いで立っていた。
後方に整列していた弩兵が4名、列から抜け出て2人の側方を警戒している。
護衛の騎士達は後方で佇立しているが、側面からの攻撃を警戒して自発的についたのであろう。弓兵隊長のライナーは指示を出していないが、王女を益することであるため見咎めはしないだろう。これはシュルツの部下であっても同じである。
エリカはマスケットを持った男の目をまっすぐに見ながら
「私の軍だって見抜いたのはなかなかの見識だけど、私を倒したら勝てるなんて思ったら大間違いよ。指揮官はみな卓越した能力を持っているから、あなた達を殲滅するのを止める人間がいなくなるだけの事よ」と楽しそうに言った。
マスケットを持った男は信じられない、といった顔で
「馬鹿な、確かに・・・」とぼそっと言った。
「あなたが私を狙ったの?」
「影武者か?」
「いいえ、あの距離からよく狙えたわね」
「一体どんな鎧を・・・」
「鎧なんか着けていないわ。信じられないなら触ってもいいけど?」
そう言ってエリカが自分の手を胸に当てると
「いや、それは・・・」
さすがに女性の身体に触れるのは躊躇われるのか口籠もった。
「それよりあなた、200歩も先の敵を狙えるの?」
「無論」
「その発音からすると騎士かしら。お抱えの猟師といったところ?」
「モーリッツ様から王女の駆除を依頼された猟師だ」
途端兵達が殺気立つのをエリカは片手を上げて抑え
「いくらで雇われたの?」
「上級銀貨10枚、成功したら更に10枚」
「えー、私って金2粒の価値もないの?」
上級銀貨12枚で金1粒である。
「そういう問題ではないだろう」
レオナルドが突っ込みを入れた
「そいつに君は狙われたんだ。どうするつもりだい?」
エリカはレオナルドに正対し少し声を落として
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