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「かーずと」
「何? 幸一君?」
……そもそも、その幸一君っていうのがおかしい。
「その呼び方、何?」
「え? だって久しぶりだし、さすがに社会人を呼び捨てにはできないかなって」
「いいから。今まで通りで」
「……コウ?」
顔を見ないで、仰向けに寝たまま話していたから気がつかなかった。和人はいつの間にか起き上がっていて、幸一の顔を凝視していた。
「なんだその顔」
「いや、えっと、何か前みたいな距離感にはなれないと思ってたから、コウが昔と変わんなくて、なんかさ」
言いにくそうに口ごもる和人を見て、夢で見たことを思い出した。あれは単なる夢ではなく、中学二年生だった和人ととの別れだった。あの別れから何となく気まずくて距離をとっているうち、幸一の仕事が忙しくなって会わなくなってしまったのだ。
「まあ、俺の方はすでに大人だったし。和人はまだ中学生のガキだったわけじゃん? 思春期なんてもんはあんなもんだし、気にしてねえよ」
笑って言うと、和人も笑った。しかし、よかったと笑う和人はなんだか落胆しているように見えて、和人が期待していた答えとは違ったのだなとわかった。
「和人、ちょっと座れ」
こうなったら兄貴分として面倒みるしかない。上手いこと和人とまたわかり合えるとは思わないが、自分が動くことで和人が学校に少しでも行く気になればいいと思った。おばさんの和人を心配する顔が、頭に浮かんだから。
和人は布団の上に正座した。幸一はベッドに腰掛ける。
「単刀直入に言うよ。なんで学校行かねえんだよ?」
「わあ、ほんとに単刀直入だなあ」
へらへら笑う和人に腹が立つ。
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