280人が本棚に入れています
本棚に追加
「真面目に答えろ」
低い声で唸る様に言うと、和人も笑みを消した。
「正月にも言ったじゃん。面倒になったんだって」
「なんで急にそんなことになったんだよ。学校で何かあったんじゃねえの?」
「何もないよ」
……なんだよ、やっぱ俺にも話す気はないんじゃないか。おばさんに俺にならって言ったのは、なんだったのか。
「何もないなら、学校行け。おばさん心配してるだろ」
「学校では何もないけど、学校以外に今やらなくちゃいけないことができたんだ。だから、学校には行かない」
「は?」
なんだ? 意味がわからない。つまり学校以外にやることがあるから、行っている暇がないと?
「それって、何?」
「言わないよ」
「なんでだよ。今高校生の和人にとって学校以上に大事なことなんてねえだろ」
「あるよ」
「いや、そりゃ誰だってあるけど、そうじゃなくてさ。学校に行ってからやれって。最低限自分がやるべきことをやってから、初めてそういうことってやっていいんじゃねえの?」
幸一はずっとそう思っていた。そして和人もそうだと。だからこそ勉強にも幼い時から励んできたのだと。
「はは、正論だね。わかった。明日は学校行くよ」
「……また嘘じゃねえだろうな」
「ほんとだって。朝学校まで連行してくれてもいいよ?」
「いや、そんなことはしないけど」
「コウ明日帰るだろ? 十六時には俺も学校から帰ってるから、帰る前にうちに寄ってよ」
にっこり微笑まれて、幸一にはその真意はわからなかった。この話をするのを終わらせるために言っているのか、本当に改心したのか。
「そんなわけで、もう寝よう? 学校行くなら朝早いからさ。電気消すよ」
「ん」
和人は電気を消して横になる。幸一もそれを見てからベッドの中に入った。シーツは新しく取り替えられているが、何となく和人の匂いがした気がした。
最初のコメントを投稿しよう!