280人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたたち、変わらないわねえ」
そう言ってくすくすと笑われてしまって、幸一と和人は恥ずかしくなって二人で俯いた。
「まだ完全に納得したわけじゃないけど……二人の気持ちはよくわかったわ」
その言葉に二人揃って顔を上げる。
「まったく……お母さん、とんでもないサプライズを用意してたのね」
優しく微笑んで祖母の手に再び触れた後、母は二人に手招きした。
そっと、幸一と和人を抱き寄せた。
「お互いの幸せを考えて、お互いを大切に。何かあった時は抱え込まずに、きちんと話して。私もお父さんも、あなたたちの味方になれるように努力するから」
温かい。
触れてくれる手は、これは、母の温もりだけじゃない。幸一に夜明けをつれてきてくれた、祖母の温もりも、伝わってくるようだった。
言葉の意味を少しずつ理解する。
味方になってくれる?
和人と家族になれる?
診療所を継ぐってことは、本当に、一生一緒にいられるってこと?
不安だったんだよ。和人に抱かれて、満たされて、幸せになっても、心のどこかで、不安だった。未来が見えない関係。それに若い和人を引き摺りこんだのではないかと、やはり未だに不安だったんだよ。
何から喜べばいいのだろう。この幸福感を、どうやって伝えればいい?
伝えたい。伝わって。
頼むから。
伝えて。
「おばあちゃん、ありがとう」
言い尽くせない感謝と、溢れる幸福感。そして刻一刻と迫る別れへの悲しみ。
すべてを一言に詰め込んだ。
届け――。
最初のコメントを投稿しよう!